喜びの歌
2023年制作
第39回読売書法展 出品作品
雨晴れの雲にたぐひて霍公鳥春日をさしてこゆ鳴き渡る
蔭草の生ひたる宿の夕影に鳴くこほろぎは聞けど飽かぬかも
この世にし楽しくあらば来む世には虫に鳥にも我れはなりなむ
【私訳】
雨上がりの雲の早い流れに沿ってホトトギスがここ我が家の上空を春日山の方面に向かって鳴きながら飛んでいく。
夕影になった庭に生えている蔭草で鳴いているコオロギの声は、いくら聞いていても飽きないなぁ。
この世がこんなにも楽しいなら、来世は虫にも鳥にも私はなって構わない。
この作品づくりのスタートは、「美しい音楽は、視覚的にも美しいのだろうか」という興味からでした。つまり、音楽を視覚化した「楽譜」の造形にも美を感じることができるものなのかが気になったのです。そこで、ベートーヴェンの喜びの歌を書道作品にしてみることにしました。
楽譜は左から始まりますが、日本の文字は右から始まることを加味して、楽譜を反転させた上で、その起伏に近い形で作品を構成ています。
書いている内容については、喜びの歌の日本語歌詞を踏まえて、その世界観を万葉集でリメイクしています。
作詞:岩佐東一郎
晴れわたる青空 ただよう雲よ
小鳥は歌えり 林に森に
こころほがらかに よろこびみちて
見かわす われらの明るき笑顔
花さく丘べに いこえる友よ
吹く風さわやか みなぎるひざし
こころは楽しく しあわせあふれ
ひびくは われらよろこびの歌
雨上がりの雲の早い流れに沿ってホトトギスがここ我が家の上空を春日山の方面に向かって鳴きながら飛んでいく。
夕影になった庭に生えている蔭草で鳴いているコオロギの声は、いくら聞いていても飽きないなぁ。
この世がこんなにも楽しいなら、来世は虫にも鳥にも私はなって構わない。
「しあわせあふれ」の感情を表す歌として「この世にし楽しくあらば来む世には虫に鳥にも我れはなりなむ」を最後に持ってくることに決めましたが、この歌では虫や鳥を人間よりも下等な生き物の例として扱っているように思われます。そこで、ホトトギスやコオロギに生命の尊さを感じる二首を前におくことで、違ったニュアンスの解釈になるようにしました。