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こもりくの
2022年制作
第38回読売書法展 読売奨励賞受賞作品
こもりくの 泊瀬の山に 照る月は 満ち欠けしけり 人の常なき
世間(よのなか)を 何に譬(たと)へむ 朝びらき 漕ぎ去(い)にし船の 跡なきがごと
験(しるし)なき 物を思はずは 一杯(ひとつき)の 濁れる酒を 飲むべくあるらし
【私訳】
泊瀬の山に照っている月は満ち欠けするもの。人の身もいつまでも永らえることはできない。
この世を何にたとえよう。朝の港を漕ぎ出て行った船の引く跡が一瞬にして消えてしまうようなものか。
考えても仕方のない物思いをするぐらいなら、一杯の酒を飲むほうがよほどいいらしい。
この作品は、日本画の構図を書道作品に取り入れるという試みで書いた作品です。日本画家・鈴木其一の『檜図屏風』の構図をモチーフにしています。
「かな」は、かな書道をされていない方にとっては全く読めない字なので、作品をどのように鑑賞したらいいかわからない…と言う方がとても多いです。作家からすると、読めなくても絵のように鑑賞して欲しいという思いがあるのですが、それもまた難しいことかもしれません。
それならば、絵と同じ構図で書けば視覚的にもう少し鑑賞し易いものになるのではないかという意図で制作しました。
内容としては、万葉集から3首を選んで書いています。1首目と2首目は人や人生の無常を歌っていて、「この世に永遠なんてものはないんだ」と憂うような内容です。しかし、3首目では「そんなことを考えて悩むのなら酒を飲んだ方が良い」というオチで、くすっと笑えるような、少し心が明るくなるようなものになればという思いで、この3首を選びました。
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